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ドストエフスキー『虐げられた人々』

ドストエフスキー『虐げられた人々』について。読んだのは相当昔です。

登場人物の描き分けがやや雑かなという印象はあるが、優しさ溢れる作品。特に物語後半のネリーの一連の話は物語全体のリアリティとフォルムを大きく損なう結果にはなっているが、そのために却って読み手の胸を打つ。特に激昂して割ってしまった茶碗を弁償するために乞食をする場面はのたうち回るほど悲しい。それに引き替え最悪のダメ人間ぶりを露呈しているのはアリョーシャで、安っぽい善人のエゴイズムあるいは醜さを余すところなく描き出しているようにも思う。ドストエフスキー自身の思想性は余り感じられないが、素朴バカや信心深い老人、悪魔的な信条と権力を持つ人物、とことん悲惨な境遇にありながらも魂は清らかな女性等々、彼の後の長編小説に出てくる登場人物の基本セットが一通り揃っている作品ではある。

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2007年01月03日 21:25に投稿されたエントリーのページです。

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