2012年03月
(無題)  (2012.03.11)


あの日はちょうど品川に商談できていて、地震の直後からエレベータが全て停止してしまったために3時間ほど足止めを食らい、結局外に出られたのは午後6時少し手前だったように思う。
その時、品川の高輪口は何とか帰宅しようとする人々、まずはオフィスに戻ろうとする人、とりあえず夜をしのぐために食糧を確保しようとする人々などでごった返していた。警察は警察で歩行者よりも一般車両の通行を優先したため、駅前の混乱はよりいっそう著しいものとなっていた。行動を共にしていた当時の上司と私は品川インターシティと高輪口を何度か往復したあげく、最終的には偶然息を吹き返した大江戸線に乗ってオフィスに逢着したのだが、その後のことはこれをお読みの方の記憶と恐らくそう変わることはないだろうから、省くことにする。

そして今日、ちょうどあの日から1年経った今日、別件で私は品川に来ていた。高輪口歩道橋からの眺めは普段通り、そしてそうであるが故にあの日とは全く違う平穏さを湛えていた。ただ、東北地方紙4紙が合同の号外を配布していたり、高田道場の子供達が街頭募金を行っていたことだけが、あの日からの差異を指し示していた。

少なくとも、歩道橋から眺める風景は、ほとんどの点においてあの日以前のそれとほとんど変わるところはない。日曜午後のありふれた、どこにでもある光景に過ぎない。だが、それを眺める時、何か言語にしがたい不安や憂鬱といったものに私の心が捕われるのを強く強く感じずにはいられなかった。まるで、目の前に今広がっている光景が全てただのうたかたのまぼろしのようであり、むしろ全てが灰燼に帰した彼の地の終末的情景こそが、我々の文明の帰着としての正当な光景ではないのか、とすら思うのだ。

かくして、そのような思いはこの一年、ほぼ間断なく私の意識あるいは思考、広い言い方をすればプシュケそのものをずっと不安に陥れてきたように思う。社会的連帯や紐帯について色々と考えるようになったのも、恐らくこの文脈とは無関係ではないはずだ。勿論所謂ミドルエイジクライシスもあるにはあろうが、今の私の精神状況は偽りなく吐露するならば、それに文明の全面的破局に対する期待と恐怖がない交ぜになったかなり不安定な状況にある。

品川駅の港南口に歩を進めると、柔和で高音に伸びのある美しい歌声が聞こえてきた。パネルを見ると、シンガーの伊吹唯(http://ameblo.jp/ibukiyui/)さんという方のライブであった。CDの売上も含め、当日の収益は全て東北への義援金に充てるとのことであり、ささやかながら、一枚CDを購入させていただいた。レーベル面にサインを頂いたが、これは3.11という日付の記憶と共に、有難くラックに飾りたいと思う。


Adagio Accessという紛らわしい名前のホテルには泊まるな!  (2012.03.05)


今回の旅行では、フランスではボルドー・パリ共にAdagio Accessというアパートホテルに滞在した。Accor系列のアパートホテルである。アパートホテルと言えばフランスではCitadineという結構高級なところが有名だが、実際の所あのくらいの値段を払うならフツーに四つ星ホテルに泊まった方がずっと快適だし色々ホテルの人に細々した用事を頼めるという点で個人的にはあまり勧めない。で、AccorのAdagioというアパートホテルは三つ星ではあるものの部屋はそれなりに清潔で風呂も広いし調理器具も充実しているので、彼の地での生活に比較的慣れた人なら逆に楽しく滞在できるリーズナブルで優れたアパートホテルだと思う。実際、以前19区のビュット・ショーモン公園そばのAdagioに滞在した時は慣れたエリアと言うこともあり、かなり楽ちんに過ごせた。今回もその経験をベースに、フランスでは両アパートホテルを押さえたわけだ。

ところが、何かボロい。ボルドーのは湯が途中でいきなり冷たい水になったり(給湯システムがボイラー色ではなくタンク式という古色蒼然ぶりのため)、エレベーターが壊れてて即日修理がなされていなかったため4階までスーツケースをヒーヒーいいながら運搬したり、電源のコンセントが二つあるくせに排他という故障がそのままになっていたり、ハンガーがほとんど壊れていたりとそれはそれは悲惨なオンボロ宿だった。パリのもいきなり停電が発生して電気が一切使えなくなったり(これはキッチンの電熱線の故障と判明した)、床に一部破損があって落とし穴みたいなひどい状況だったりと、生存権すら危ぶまれるようなひどい有様だった。特に湯が水になった時には死ぬかと思ったので、当然ブチ切れてAccorの顧客サービスマネージャーに直接メールを送りつけたり、フロントの担当者をガンガン怒鳴りつけて部屋を替えさせたりとまあ色々やって大概の問題は解決したし、その都度限られた状況の中で色々と努力してくれたホテルのスタッフには感謝したいが、正直言うと「金返せ!」に限りなく近いレベルのオンボロアパートであった。部屋が広かったのはよかったけど。
で、何かおかしいと思って精査してみたら、今回泊まったのは正確に言えばAdagioではなく、Adagio Accessというサブブランドの二つ星アパートホテルだったのだ。えー、二つ星なら19区のHotel CriméeとかAccor系列なら朝ご飯がついてくるIbisに泊まるよいくら何でも……。つか貧乏な私でもこの年になってくるとさすがに三つ星くらいのホテルには泊まりたい。ちなみにAdagio Accessは元々Citéaという名前だったのだが、恐らくアクセント付文字をアングロサクソンの言語しか知らない愚民どもに正しく読んでもらえないという問題を回避するため、何かテキトーなネーミングに変更したのではないかと思われる。

でもこれって、景品表示法における優良誤認を招きかねないようなひでえブランディングだと思うんだけど、どうなのか? もちろんAccorのサイトでもAdagioのみという基準で検索するとAdagio Accessは出てこない仕組にはなっているんだけど、AdagioとAdagio Accessはロゴもまるっきり一緒なので、中身をきっちり読んで星の数に留意しないと私のように地雷を踏む人間はこれから数限りなく出てくるだろうと思う。

そんなわけで、ここに警鐘を鳴らす意味も含めて、書いておきます。

Adagio Accessという紛らわしい名前のホテルには、それ相当の覚悟と語学力がない限り、絶対に泊まるな!


build by HL-imgdiary Ver.1.25