★いざバスティーユへ


なんてこった、また雨が降り始めた……
通り沿いにあったベンチによじ登ってちょっと後方を撮影。通りのずっと遠くまで人々の波が途切れることなく続いている。最低でも5万人は堅いな、とこのとき思った。あとで各種報道を読むと最大時の参加者はおよそ10万人だったそうだが、その数字は誇張ではないだろう。
これだけの人々が怒りを持って今日のデモに参加している。パリの人口は近郊都市も含めておよそ550万人弱と言われている。ということは単純計算でもパリおよび近郊に住む人々のおよそ1.8%がこのデモのために集まってきたということだ。すげえ。


雨に霞むバスティーユ広場の塔。それでも行進は続く。シュプレヒコールはいよいよ強く、そして大きく。


バスティーユ広場へ。

すぐ前にいる参加者の背中には「NON au FN」(国民戦線にノン)と手書きである。
デモに参加するためには特別な気負いはいらない。手許にあるものでめいめい勝手に意思表明をする。即席でも構わないのだ。箪笥から赤い服やアクセサリを取り出してきて着る。Tシャツにマジックで主張を書く。スーパーなどから段ボールを貰ってきてその裏に反人種差別、反極右のメッセージを書き付ける。実際高校生の参加者のお手製のプラカードはお世辞にもきれいで読みやすいとは言えないものだ。
だが、恐らくそこには、最も原始的な形での民主主義の萌芽がある。

この気軽さと社会を活気づかせる熱気は、表裏一体の関係にある。政治的な怒りを公共的空間の中で直ちに表明しうること。一見清潔に見える支配された空間を、雑多な表現手段によって壊乱すること。支配の線を掻き乱すこと。


バスティーユ広場にて。

参加者の波は延々と続く。拳を振り上げるシュプレヒコールも鳴りやまず広場を震わせる。
「F comme Fasciste, N comme Nazi, à bas, à bas, le Front National!」 「Nous sommes tous, des enfants d'immigrés! 1ère, 2ème, et 3ème génération!」
そしてそのなかに高校生達の歌う蓮っ葉な歌が混じる。


ある者は塔の台座によじ登り、反FNの旗を振りかざす。
練り歩くことを楽しみながら、ある者はビールを飲みながら、またある者はパニーニを頬張りながら、反極右のデモに参加する。それがごく当たり前であるかのように。即席でこさえたプラカードと手製の横断幕、そしてフェイスペインティング。

正直言って、このような熱気ある社会が私は羨ましい。高校生ですら堂々と反極右を叫ぶその強さが、羨ましくて仕方なかった。


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