用語解説

プラトンの『ソフィスト』とか『ゴルギアス』
いずれもプラトンの著作で、途中ソフィストを論駁する場面が出てくる。邦訳は岩波書店の全集などに収められている。

形而上的な言葉
ここでは極めて抽象性の高い、という意味。日常的世界からいったん身を引いて概念のみでの思考を行う場面などを指す。

メタレベル
文には直接書いてはいないのだが、それが総体として含意する内容として、という意味。

メルロ=ポンティがメーヌ・ド・ビランの習慣論に加えた批判
メルロ=ポンティはメーヌ・ド・ビランの習慣論に対して、「受動的習慣と能動的習慣を分ける基準がなんなのか、分からない」と言って批判している。ちなみにメーヌ・ド・ビランの習慣論とは彼の主著の一つ『習慣の思惟能力の影響について』のこと。

観念論的ドグマ
ドイツ観念論のことではない。フランス観念学派のこと。そこには現代の見地からすると少々観念先行の側面があり、実証的に見てもおかしなところが結構ある。

ベルクソンの純粋持続
フランスの哲学者アンリ・ベルクソンは『意識の直接的所与についての試論』などにおいて意識に直接与えられているものは質的な様々なものが分割不可能な形で持続している一種の流動的過程であるとして、それを純粋持続であるとした。そしてこれは分割不可能であるが故に、我々が日常暮らしている上での近代的時間の流れとは根本的にその性格が違う。むろん、ベルクソンによれば、このような純粋持続こそが我々の生そして意識のあり方の根本であるという。

エイロネイアー弁法
アイロニーの語源は古代ギリシア語のエイロネイアーであり、「空とぼけ」の意味を持つ。ソクラテスはこの「空とぼけ」を利用し、「〜とは何か」と問い続けることによって、無知の知に関する教説を説いた。エイロネイアー弁法とは、このようなソクラテスのやり方に則り、相手が言っていることの鍵概念について、それが何であるのかを阿呆のごとく問い質していく議論上の戦術の一つ。

ハイデガーが「存在」についてお唱えになる有り難いお説
ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーはその最初の主著『存在と時間』において、「存在への思惟」を提唱した。が、「存在」については多くの批判者が言うとおり、具体的な定義付けは殆どなされていない。

脱構築
フランスの哲学者ジャック・デリダの提案した概念。極めて大雑把な言い方をすれば、ただぶっ壊すのでもなく、ただ組み立てるのでもない、動的な思考方法を意味し、体系的思考を内在的に突破しようとする今世紀の哲学を象徴する鍵概念の一つとなっている。

ラカンの説
フランスの精神分析家ジャック・ラカンの説で、彼は「言葉」を軸にすることによって自我そのものの同一性は他者によって構成されたものに過ぎないということを示した。即ち、ラカンの説に従えば、言葉を自分が発しているということは他者に同一性を奪われているという事態の裏返しでもあるということになる。この観点からすれば、自分の言葉とは常に他者の言葉に取り込まれている。

ラングとパロール
スイスの言語学者フェルディナン・ドゥ・ソシュールが現代的な意味を与えて蘇らせた概念。彼の思想の元々はポール・ロワイヤル文法にあるが、それはともかく、ソシュールによれば言語活動としてのランガージュは制度としてのラングと話し言葉としてのパロールに分かれる。むろん、パロールはラングを内在的に改変してゆく可能性を持っている。

クリステヴァも言うように
フランスの思想家ジュリア・クリステヴァは『セメイオチケ』などにおいて、全てのテクストは引用文の集積であるとする『間テクスト性』を主張している。

レヴィナス
フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスのこと。リトアニアに生まれ、フッサールなどに学んだ後、ユダヤ教の影響が濃く、ハイデガーへの強い批判を含む独自の倫理思想を紡ぐに至った。主著『全体性と無限』(邦訳国文社)『存在するとは別の仕方で あるいは存在することの彼方へ』(邦訳朝日出版社)など。

アポリア
「難題」のこと。特に「アポリア」と言うときは、「解決困難な難題」という意味が強い。

カントの礼賛
ドイツの哲学者イマヌエル・カントは『永遠平和のために』の中で「正義は成就されよ、世界は滅ぶとも」と言ってる。同書の邦訳は岩波文庫などで入手可能。

テーゼ
ドイツ語Theseのこと。命題としての仮説、程度の意味でここでは使っている。

ハイデガーも批判したとおり
『存在と時間』において、ハイデガーは世人一般(Das Man)について「新規さへの好奇心」「お喋り」「曖昧さ」などの傾向があり、非本来的であると批判した。

リオタール
フランスの思想家ジャン=フランソワ・リオタールのこと。パリ郊外のヴェルサイユに生まれる。マルクス主義活動グループ「社会主義か野蛮か」への参加を経て、ポスト構造主義の思想家として『リビドー経済』などを著す。その後ポストモダン思想を提唱し、大きな話題を呼んだ。主著は他に『ポストモダンの条件』(邦訳水声社)『文の抗争』(邦訳法政大学出版局)『ハイデガーと〈ユダヤ人〉』(邦訳藤原書店)など。

崇高論
リオタールがカントの『判断力批判』などに触発されて提起した問題。「崇高であること」を他者論との関連も含めて展開していこうとするところに特徴があり、フィリップ・ラクー=ラバルトなども同様の問題圏を論じている。

オリエンタリズム
サイードの『オリエンタリズム』のことではない。18世紀末から19世紀中頃にかけてヨーロッパで起こった「東方趣味」のこと。

トラウマ
古代ギリシア語で「傷」のこと。ここでは心的外傷の意味で使っている。

アドルノも言うとおり
『プリズメン』や『否定弁証法』などを参照のこと。アドルノとはドイツの思想家テオドール・アドルノのこと。

「我と汝」
ドイツの哲学者マルティン・ブーバーの提唱した概念。実存的に開かれた関係を意味する。同名の著書の邦訳が岩波文庫で読める。

ルサンチマン
ドイツの哲学者フリードリッヒ・ニーチェの唱えた概念。怨恨などと訳されるが、彼によれば弱者は自らが積極的に強者を打倒する術を持たないが故に、自らの弱さを正当化する道徳を捏造するという。その際ルサンチマンはそのような弱者の道徳捏造を後押しする歪んだエネルギーとして機能する。